東京新聞「異彩面談」 記事内容

 全国津々浦々、連呼の二〇〇〇年総選挙である。そこで異彩面談も今回は趣向を変えて、その道のプロ登場。名だたるコピーライターが斬る。「ぼくは、今回は面白い、と思ってますよ。広告はね」
 この人、「民主党」のキャッチフレーズやロゴマークの制作にかかわったこともある。
 米国の大統領選とまではいかないが、工夫を凝らした日本の政党CMがいま、面白い。コワモテ小沢一郎さんがたたかれて顔をしかめる「自由党」。コギャルに品の取り換えを迫られても断固拒否する駄菓子屋のおばあちゃん。振り向けばそれが土井たか子さんで、「憲法9条変えさせません」とおっかない顔で叫ぶ「社民党」(十九日から放送)・・・・・・。
 確かに関心の薄い向きにも面白い。「でも具体性がない。だから、手練手管に走りすぎてるんです。自由党の『日本一新』は何をやるのか。民主党も『奪る!』って、どうするのか。社民党は具体的だけど、憲法9条は今の大テーマなのか、これで戦えるのかなとおもいますね。根本的な商品企画がダメ。世の中が求めているものと一致してることが、いいマーケティングだし、売れる、ということなんですよ」
 「商品企画」とは、政策。際立った特徴がない。だいたい「党のネーミングだって『自由』『民主』『社会』の組み合わせだし」。オモシロCMで目を引いても、中身がなければ有権者の心はつかめませんよ、というわけだ。
 数々のネーミングを手掛けた人である。雑誌「Saita」「BRIO」や洗濯機の「からまん棒」、建物でも「MY CITY」「Bunkamuraシアターコクーン、オーチャードホール」、PHSの「ASTEL」。最近では、旧日本長期信用銀行の「新生銀行」などなど。広告文を考えるのが主のコピーライターが、ネーミングまで任されるようになった先駆けだ。
 では、政党はどうすればいいと?
 「やはり今回の選挙のテーマは経済ですよ。もしもぼくが作るなら浮動票の中の浮動票である若者を狙う。今、若者のいろんな事件が起こってるけどそれは経済が問題だからだと思う。経済がよくならないと人生設計ができない。将来の夢も希望もないでしょ。でも、『若者に夢を』なんてキャッチフレーズじゃつまらない。『選挙に行かないキミたちのために立候補した』なら、オヤ?って思う。それが手練手管。それで目を引いたら、高い年金負担をタダにするけど二十年後には税金を払ってください、とか、具体的なことを言う。それが魅力的だったら、票も結構来るんじゃない?机上の空論ですけど(笑い)」
 コピーライターになる前は「女性自身」の記者。スキャンダル誌になっていくのにつれて、やる気を失って転職した。「正義の味方づらして人を切るのが嫌だった。広告なら、偉そうな正義もない、乾いたせかいだからいいかな、と」。学生時代は六〇年安保で毎日デモに出掛けたクチ。「政治的意識とか嗅覚みたいなものをコピーライターとしては持ってる方でしょうね」
 七〇年代の初めにテレビ番組で、フンドシに「ジャパンツ」と名付けた。それがきっかけでワニブックスから出版した「意表をつくネーミング」があたって、仕事が増えた。でも、ネーミングには何カ月と時間がかかる。依頼者を納得させるためだ。
 だから「コピーライターは説得力がないとできない」と言う。なるほど。そうだ!コピーライターの修行をしてみるのも、票集めにつながるかもしれませんよ、候補者の皆さん!

(東京新聞「異彩面談」 2000/6/16(金)夕刊)