たった一字で多くの情報を発信できる
“漢字語呂合わせ”は広告業界で大流行り
視覚と聴覚の二重情報をオーバーラップさせる

まずは、クイズです。次の漢字は、一体なんでしょう?
「侍」「響」「膳」「座」
ヒント。商品名です。時代劇には関係ありません。飲み屋の名前でもありません。でも当たらずと言えども遠からず。
はい、正解は飲み物の名前です。
「侍」はKIRINのスポーツ飲料。「膳」と「響」と「座」はSUNTORYのウイスキー名です。たった一字で、たくさんのことを言っているネーミングだと思いませんか。
「侍」という字を一回見ただけで、黒澤映画の用心棒や桃太郎侍や旗本退屈男や‥‥イメージが限りなく広がってゆく。
「膳」明らかに和風ですね。ウイスキーなのだが、これは和食に良く合う、新しいタイプのウイスキーだ、ということを伝えようとしています。
「響」はずいぶん歴史が長い。漢字一字のネーミングとしては超先駆者ではないでしょうか。たった一字で豊かな様々な音が聞こえてきそうです。字画が極端に多いことが、それだけで表現になっているような気がしませんか。なんだか複雑な味と香りがしそう。たった一字だけで漢字は、なんと豊かなイメージを抱いているんでしょうね。
「座」はどうですか。座敷を思う人、寄席の高座を心に描く人、宴会での座布団を思い浮かべる人‥‥いやいや、このネーミングには、英語のTHEを連想させる仕掛けがしてあるんですよ。キャッチフレーズはなんと、
「座ウイスキー」
ほらね。英語の唯一無二、至高を意味するTHEと語呂合わせを仕掛けてある。まあ、憎たらしい言葉遊び、というわけです。口に出して読むとよく分かります。
座ウイスキー=THE WHISKY
と聞こえるでしょう。視覚での意味と聴覚での意味がオーバーラップして、二重の情報を発信する。漢字と英語のハイブリッド・ネーミング(混血名)と言えませんか。
同音異義語を使って面白く、憶えやすく
言葉遊びといえば、広告の、それもネーミングでは、いまや大流行り。その手口の一番手はやはりなんと言っても、語呂合わせでしょう。中でも漢字の語呂合わせが、なぜか家電に多いんですね。例えば、
「感度涼好」
「ワイド省」
「大清快」
「冷たさにがしま鮮」
「野菜中心蔵」
「感度涼好」は言うまでもなく「感度良好」のもじり。良いということと涼しいを一語で言っている。
「ワイド省」は「ワイドショー」との掛詞。ショウSHOWという英語の音と掛けているわけです。まるで、ショーのように楽しめるテレビでありながら、省エネできますよ、というメッセージがこめられています。
「大清快」は、「大正解」のパロディ。空気をきれいにして吹き出すエアコン。これはまさに時代に合った正しい答、というわけです。
「冷たさにがしま鮮」はオシリの「鮮」が否定の「‥せん」に掛けてあって、冷たさを逃がさないから、新鮮さを保てるというメリットを伝えようとしているのです。
「野菜中心蔵」は、あの「忠臣蔵」の語呂合わせであるということは一目瞭然です。
語呂合わせというのは、要するに同じ音(おん)を入れ替えるという手口。漢字が同音異義語をたくさん持っていることを利用して、別の意味やイメージを伝える方法なんですね。
どうしてそんな、ややこしいことを、ネーミングに施すのでしょう。一つには面白いから。面白ければ憶えてもらいやすい。商品としてはとにかく憶えてもらって買ってもらうのが身上ですから。
もう一つの効用は、二つの意味=情報を重ねるという効果があるから。
例えば、最後に引いた「野菜中心蔵」を見てみましょうか。日本人なら誰でも知っている「忠臣蔵」を思いださせて面白がらせ、同時に、野菜入れが冷蔵庫の中心にありますよ、という商品の一番大事なセールスポイント=情報を伝えているでしょう?
他の例も、もう一度見直してみてください。みんなこうした二重性を持っています。
ものすごい種類と数が氾濫している市場の中で、憶えてもらって買ってもらうには、商品名はできるだけ短い方がいい。語呂合わせは、漢字の持ってる多重情報を巧みに活用することによって、短い言葉の中にいくつもの情報を凝縮しようと、必死の努力をしているわけなんです。
広告の世界では、漢字の語呂合わせが、遊びではなく真剣なセールス手法として、ネーミングという姿を借りて活躍している、と言っていいでしょう。

(ほんとうの時代・7月号)