先に”面白ネーミング”が多いと書いたが、「実際、今ネーミングが暴れているんですよ」と話すのは、クリエイティブ集団「ロックスカンパニー」(岩永事務所)代表の岩永嘉弘氏だ。
「こうしたブームは、一九七〇年前半の石油ショック、一九八〇年初頭の円高不況、そして平成大不況と、いずれも不況時に起こっている。それはなぜか。不況のときは物が売れないから、商品開発が活性化し、商品アイテムが増えるんですが、それに反比例して広告費は激減する。
 では、どういう現象が起こるかというと、広告されない商品が溢れてくるわけです。そんななかで消費者の購買意欲を少しでも刺激するには、目立つしかない。他の商品とはココが違うんだとパッケージの上から叫ぶしかない。一生懸命なネーミングが増えるのも、ネーミングが広告の役割を担っているからなんです。宣伝広告がなされている場合は、ネーミングは消費者をその商品まで導くための水先案内人になるんですね。でも種類が多い、記憶もうろ覚えになりがちでしょ。そこで、いかに単純で覚えやすくするかがポイントになる。そういう工夫をみんなが始めたわけです」
「MY CITY」、「日立からまん棒」、「ASTEL」、「JR ioカード」・・・・・・。ネーミングの世界でも第一人者として活躍する岩永氏が手がけた作品は数知れず。そして、それらは確かにわかりやすい。
「商品には必ず何らかの特徴があり、それをみつけるのがいちばん重要な部分なんです。たとえばその洗濯機は、洗濯槽の真ん中に出現した棒によって布を絡めないという特徴をもっていた。それで『からまん棒』になったんです。PHSの先がけとなった『ASTEL』は、”明日の電話”という意味ですしね。そうやって商品の特徴を最大限に表現しつつ、記憶に残りやすい名前にする。ネーミングをつくる具体的な作業としては、どういうアプローチの方向があるかを考えます。アルコール度数の低いビールであれば、商品特性は?ターゲットは?いつ飲んでほしいのか?といった商品のセールスポイントを把握し、どの方向のネーミングにするか絞り込んでいく。
 まあ、ネーミング自体が必要条件を満たしていても、面白くなきゃしょうがないけどね(笑)。だから最後は、レトリックを使って言葉にパワーを与える。そこは、名前をつくった人の力量が問われる部分でもありますね」
 ネーミングを決めるということは、じつは商品企画の根源に関わることを議論する作業なのだ。そして最後は、マーケティング戦略としてのネーミングが、その力量を発揮するのである。

(The Neihbor 6月号・特集「ネーミングは世相を写す」より抜粋)